各種福祉機関を利用している「利用者さん」の世界では「居場所と出番」は与えてもらうもの、企業に属しその企業の従業員として働く「社員さん」の世界では「居場所と出番」は自ら確保し守るものという違いがあります。では実際に「利用者さん」と「社員さん」とでは何が違うのでしょうか?ここではそれぞれの違いについて考えてみます。
心や身体を患って入院していた時は「患者さん」として当然大切にされてきました。やっとの思いで退院して地域に帰る。
就労訓練をする福祉的作業所の現場では、生活のしづらさを抱えながら、それを克服するべく各種施策・制度・施設を利用する、「利用者さん」という呼び名が一般的です。就労にむけた訓練をしている現場でも、心身の調子はもちろん、どのような暮らしを目指したいかを、「利用者さん本位」の姿勢を尊重しながら関係職員などの専門職が総動員でサポートします。
朝起きて、気持ちがのらない、昨日の夜眠れなかった…。「無理せず、今日は施設を利用するのを休もう」「(作業中も)少々調子が悪いので、休養室いきます」無理をして、また再び「患者さん」に戻ってしまっては元も子もないということです。
これが、これまでの「利用者さん」としては当然の発想と行動でした。
福祉の世界では「居場所と出番」は与えてもらうもの、嫌なら拒否できるものとも言えます。
各種制度・施設を利用する「利用者さん」の平均賃金は、障がいのある人が自立して暮らすために十分な収入を得られているとは言えません。下記では、就労継続支援A型・B型それぞれの平均賃金の状況をご紹介します。
⚫︎平成27年度の利用者1人当たりの平均賃金月額は、67,795円と18年度と比べて約40%減少している。
(※)平成18年度就労継続支援A型事務所及び福祉工場における平均
【出典】厚生労働省障害福祉課調べ
⚫︎平成27年度の利用者1人当たりの平均工賃月額は、15,033円と18年度と比べて約22.9%上昇している一方、上位25%と下位25%の事業所の平均工賃には約5倍の差がある。
((※)平成 18 年度は就労継続支援B型事業所、授産施設、小規模通所授産施設における平均
【出典】厚生労働省障害福祉課調べ
職場の仲間、上司。みな外部のお客様と約束した「納期・品質・価格」を守るため懸命に働いています。所属組織の目標、個人の成績評価につながる目標にも縛られます。もちろん、法律で定められた「障がいのある社員に対する合理的配慮」はとられていますし、従業員満足や、やる気を高める工夫をしている企業も多数あります。
しかし、毎月ある一定額の給料を貰うことは、決められた就業時間、休暇日数のルールに従う、という厳しさを伴います。
「朝起きたら具合が悪く、急に休む」ことももちろんやむなきことですが、その分、誰かが穴埋め、フォローを強いられることになります。資本主義の市場で、各企業は常にお客様や株主といった利害関係者から「比較・評価・選別」されるため、自然と、そこで働く社員も「比較・評価・選別」されることになります。
企業の世界では「居場所と出番」は自ら確保し、守るものなのです。
平成 29 年度平均工賃(賃金)
【出典】厚生労働省障害福祉課調べ
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